日曜日, 1月 15, 2006

グラマリール情報その1

高齢者せん妄の薬物療法 高齢者せん妄の薬物療法を教えて下さい。 とくに、抗精神病薬の使い方、薬剤の保険診療対策にもふれて解説して下さい。 抗精神病薬の中では、高齢者せん妄に適応とされる薬剤は少ないので、レセプトに精神分裂病という病名を付けるかどうか、臨床の非精神科医としては困っています。
(岩手県・外科)
回答 福島県立医科大学神経精神医学講座 教授 丹羽真一福島県立医科大学神経精神医学講座 小林直人  高齢者のせん妄は、近年高齢化が進むと共に一般病院や介護施設などで頻繁に認められるようになってきました。せん妄の原因には様々な因子が関与しているといわれますが、結果として脳機能が低下し、可逆性に意識が変容、混濁した状態と考えられています。せん妄が出現した場合はまずその原因を検索しそれを除去することが重要です。それでも改善が認められない時に初めて薬物療法を開始します。 現在、わが国でせん妄の保険適応を受けている薬は塩酸チアプリド(グラマリール(R))のみです。一日25~75mgを分3あるいは就寝前に投与することで、せん妄の改善に効果があることがいわれています。しかし、実際の臨床場面では夜間の不眠や精神運動興奮が強い場合がしばしばであり、専門科医の間では抗精神病薬を処方することが多いと思われます。中でもハロペリドール(セレネース(R))は強い抗幻覚・妄想作用を有し、統合失調症(精神分裂病)患者の治療薬として有名です。鎮静作用、血圧・循環系への作用が比較的弱いために、高齢者や心機能に不安のある患者にも使用しやすいとされています。セレネース(R)を就寝前に0.75~1.5mg投与することで効果を認める場合があります。また、抗うつ薬として使用されている塩酸ミアンセリン(テトラミド(R))がせん妄治療に有効であることが確かめられています。テトラミド(R)の鎮静・催眠効果を利用し就寝前に10~30mgを投与することで睡眠障害の改善にも役立てることができます。 近年、統合失調症の治療に以前から使用されていたハロペリドールを代表とする定型抗精神病薬に代わり非定型抗精神病薬が用いられる機会が増えています。これらにはリスペリドン(リスパダール(R))、オランザピン(ジプレキサ(R))、フマル酸クエチアピン(セロクエル(R))、塩酸ぺロスピロン(ルーラン(R))などが含まれます。薬の特徴としては、定型薬と同等の症状改善効果を持ち合わせることに加え、錐体外路症状などの副作用出現が有意に少ないといわれています。これらの薬を少量用いることでせん妄や痴呆などにもとづく問題行動が軽減するというデータが蓄積しています。具体的な最適投与量については海外のエビデンスをもとに表に示しましたが、効果や副作用出現については年令や全身状態などに伴う個人差があるために、投与にあたっては少量から開始し十分観察しながら増量していく必要があります。さらに症状改善後は漸減し中止することが望まれます。わが国で使用可能な非定型抗精神病薬と高齢者に対する最適用量
非定型抗精神病薬
高齢者に対する最適用量
リスペリドン(リスパダール(R))
1mg前後/日
オランザピン(ジプレキサ(R))
10mg/日 以下
フマル酸クエチアピン(セロクエル(R))
100mg/日 以下
塩酸ペロスピロン(ルーラン(R))
4~8mg前後/日 最後にレセプト病名についての問題ですが、セレネース(R)を使用する場合は「せん妄および精神分裂病様状態」などと記載し症状詳記がなされている場合は保険上問題ないと考えます。テトラミド(R)を使用する場合には「うつ状態」と記載することが必要です。しかし、非定型抗精神病薬を使用する場合は現在のところ統合失調症という病名が必要になります。今後治験などをもとに更なるエビデンスを確立し、各薬剤の適応拡大に努めていく必要があります。文献 丹羽真一、小林直人:老年期せん妄、抗不安薬と睡眠薬の使い方、227~231頁、上島国利ほか(監)、アルタ出版、東京、2002年

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