水曜日, 9月 20, 2006

有料老人ホーム連載7:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
トラブル防衛策
契約書の比較検討を
有料ホームに関する電話相談に応じる相談員たち(横浜市の消費生活総合センターで)
 手の届く価格帯が増え、老後の住まいの身近な選択肢となった有料老人ホーム。その一方で、トラブルも増えている。入居を決める際、どんな点に注意したらいいのだろうか。(本田麻由美)
 「たった5日間しか入居していないのに、300万円の権利金は全額返せないと言われたんです」
 関東地方に住むAさんは、昨年末、県内の消費生活センターに電話し、怒りもあらわにそう訴えた。
 入院中だった父親(80)が退院を迫られ、困ったAさんは、ある有料老人ホームに父親を入居させた。初めに支払った入居一時金は、終身利用権利金300万円と保証金200万円。安くはないが、特別養護老人ホームに空きはなく、提携病院で医療対応もすると聞いて決断した。
 だが、父親は入居してすぐ、胃に管を通す手術を受けるため10日間入院。ホームに戻った数日後に容体が急変し、緊急入院した病院でそのまま亡くなった。

 「ホームにいたのは5日間だけ。支払った計500万円から5日分を引いた残金を返してほしい」。Aさんの求めにホーム側は、「入院時を含め部屋は2週間確保した。権利金は、契約書で入居後7日を経過したら一切返金できないとしている」と拒否。保証金は「入居2年に満たない場合は返金するが、2年後に返す」と回答してきた。
 「不当だ」とのAさんの訴えを受け、相談員が交渉。権利金は半額戻ることになったが、ホーム側は「保証金は2年後」と譲らず、Aさんは「事を長引かせたくない」と受け入れた。
 事態を重くみた厚生労働省は、4月からホーム側にサービス内容や費用などの情報開示を義務付け、重要事項説明書で一時金の返還率などの明示も求めた。また、新たに開業するホームには、倒産時に備え一時金を最大500万円まで保全することも義務化。設置運営指導指針で、7月からは「契約時から90日以内の解約は(利用期間の利用料等を除き)一時金の全額を返還すること」としている。
 これに対し、消費者契約に詳しい東京経済大教授の村千鶴子弁護士は、「契約内容の適正化と消費者保護を図るため、一時金の償却期間など必要と思われるものは法で基準を定めるべきだ」と強調。現時点でのトラブル防衛策としては、「見学前に重要事項説明書や契約書をよく比較検討すること」を挙げる。また、今夏以降、ホームの情報が都道府県のホームページで公表される予定であることから、木間さんは「退去者数や退去先を見れば、介護の質も分かる」とアドバイスしている。

 朗(老)年最前線第3部「有料老人ホーム」は今回で終わります。第4部は、老後の仕事についてお届けします。
(2006年6月28日 読売新聞)

有料老人ホーム連載7:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
資金計画
余命考え「月額」決めて

 有料老人ホームの価格設定が多様化し、選択肢が増えてきた。ホーム選びで最も重要なのは資金計画だ。自分の資金で一生住み続けられるのか、十分に見極める必要がある。計画作りのポイントを紹介する。(林真奈美)
「高級」よりも…
 東京・中野区の元教員A子さん(71)は、6年前に夫を亡くして一人暮らし。75歳までに有料老人ホームに入居する予定で見学を重ねている。年金は月24万円、預金は約1000万円。自宅と2DKのマンションを所有するが、自宅は子供に残したいと思っている。
 現在までに、「入居一時金ゼロで月額費用21万円」「同1000万円で18万円」などに候補を絞った。「最初は高級ホームに魅力を感じたけれど、資金計画を練るうちに自分に合ったホームが見えてきた。お金の使い方を考えることがホーム選びの第一歩ですね」とA子さん。
 有料老人ホームの費用は、入居一時金と月額費用が主だ。ただ、「ほかにも生活上の出費は多い。入居一時金がいくらなら月額費用はいくらまで支払い可能か。それを把握することが資金計画の基本です」と、有料ホームの経営コンサルタントでファイナンシャルプランナーの浜田孝一さんは強調する。
 資金計画は、次の四つの段階で考えるとわかりやすいという。
 〈1〉支払い原資の確認。預貯金や自宅売却による資産と、年金や家族からの援助などの収入を、それぞれ明確にする。
 〈2〉資産分類。使い道により、「親族への相続」「入院などの臨時費用」「本人利用分」に3分類する。相続はゼロでもよいが、臨時費用は、ホーム費用の値上がりや医療・介護保険の負担増も念頭に設定する。残りが本人利用分だ。
 〈3〉「その他費用」の見積もり。ホームのパンフレットに書かれた月額費用以外の費用を見積もる。外食や趣味の費用、電話代、オムツ代、通院している場合は医療費など。注意したいのは、ホームによって月額費用に含まれるサービスが大きく異なる点。家事援助や介護で思わぬ追加負担が発生する場合も多い。
 〈4〉平均余命を考慮。平均余命と健康状態を勘案して入居期間を予想し、これまでの3段階を踏まえて、入居一時金や月額費用が支払い可能かを検討する。
若いほど誤差
 そのために、まず、入居一時金を支払った後の毎月の利用可能額を計算する。〈2〉の「本人利用分」から入居一時金を引き、残りを予想入居期間で取り崩すと想定して、1か月当たりの金額を算出。これに、〈1〉の年金など月々の収入を加えた額が毎月の利用可能額となる。次に、毎月の利用可能額から〈3〉の「その他費用」を引く。この金額が支払い可能なホームの月額費用だ。この範囲内なら資金計画はOKといえる。
 浜田さんは、「若いほど誤差が大きくなるので、入居期間や臨時費用に余裕を持たせて見積もることが大事。家を売って費用を工面する場合は、認知症などでホームから退去を求められる事態も想定し、より慎重な計画を」と話している。
主な年齢の平均余命

男性
女性
60歳
22.17年
27.74年
65歳
18.21年
23.28年
70歳
14.51年
18.98年
75歳
11.23年
14.93年
80歳
8.39年
11.23年
85歳
6.07年
8.10年
90歳
4.36年
5.69年
95歳
3.21年
4.02年
100歳
2.41年
2.96年
厚生労働省「2004年簡易生命表」から
(2006年6月27日 読売新聞)
YOL内関連情報

有料老人ホーム連載6:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
チェックポイント
入居者の表情目安に
担当者の説明を受けながら、居室を見学する入居希望者(横浜市港北区の有料老人ホームで)
 有料老人ホームへの住み替えを決断したら、多様な選択肢の中から、自分に合ったホームを探すことになる。サービスの質や、倒産の可能性など不安も尽きないなか、入居後に後悔しないよう、賢いホーム選びのポイントを紹介する。(中舘聡子)
 先月、横浜市内で有料老人ホームの見学会が開かれた。主催したのは、ホームの情報提供・入居相談に応じている「高齢者住宅情報センター」。参加者は、施設概要を担当者から聞いた後、館内を見学、入居者と同じ昼食を食べ、食事内容もチェックした。
 その一人で市内に住む男性(66)は、6年前に妻を亡くし、一人暮らし。「何かあっても誰にも気づかれないのでは」との不安感や孤独感、また、食事作りの苦労から解放されたくて、もう5か所以上もホームを見て回ったという。
 それを聞いた同センターの相談員は、「自分の目で見ることは非常に大切。ただ、やみくもに幾つもホームを見て回るのは大変なので、地域や金額、部屋の広さなど、絶対に自分が譲れない条件をまず絞って資料を取り寄せ、比較検討してみては」と、この男性にアドバイスを送った。
 同センターのような情報提供・相談機関は急増している。成約手数料を収入源としているところも多く、情報の精査が必要だが、複数のホームの情報を一度に得られるメリットは大きい。
 その一つ、会員制の「タムラプランニング&オペレーティング」社長の田村明孝さんは、「今はホーム数が増え、『買い手市場』なので、契約をせかされても即決せず、十分比較検討することが大切」と強調する。

 入居の検討にあたってまず欠かせないのが、PR用の美辞麗句に惑わされず、パンフレットの内容をよく読み込むことだ。特に注意が必要なのが入居一時金や月額利用料の記述。これに含まれるのは基本的なサービスのみで、規定以上のサービスは追加費用が必要になる。そうした細かい事項は重要事項説明書や入居契約書に書いてある場合が多い。田村さんは、「資料はできる限り請求する。『契約時にしか見せられない』と、情報公開を拒むようなホームは避けた方がいい」と言う。
 資料で気に入ったホームが見つかれば、次は現地見学。いいホームを見極めるためのチェック項目は多いが、一番の目安は「スタッフの対応の仕方と入居者の表情」という。体験入居もしてみると、より入居後の実感が得やすい。
 元気な人にとっては部屋の面積、要介護の人にとってはケアの内容も気になるところ。田村さんはケアの充実度をはかる指標として、「認知症になった時の対応」を挙げる。環境の変化が進行を早める恐れのある病気だけに、安易に部屋の移動を促すホームは要注意だ。職員の研修の有無も判断材料となる。
 経営状況を把握するためには、入居率が参考になる。タムラプランニングの調査では、5年前に90%を超えていたホーム全体の平均入居率は下落を続け、昨年は45%にまで下がった。
 「開設時に30%、1年後で60%、2年以降で80%を超えていれば、まず安心」と田村さんは話している。
有料老人ホームに関する主な相談機関
◇シニアライフ情報センター(東京都渋谷区)(電)03・5350・8491。◇タムラプランニング&オペレーティング(東京都千代田区)(電)03・3292・1107。◇高齢者住宅情報センター(東京都中央区、大阪市北区)(電)0120・352・350。◇全国有料老人ホーム協会(東京都中央区)(電)03・3548・1077。
(2006年6月21日 読売新聞)

有料老人ホーム連載5:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
入居の時期
生活設計をしっかり
東京都内で開かれたセミナーで住み替えのポイントを説明する池田さん。「ついのすみか」に対する高齢者の関心は高い
 「老後の住まい」の選択肢として注目される有料老人ホームだが、自宅からの住み替えの時期について悩む人は多い。入居後の生活設計や資金計画をしっかり立てておくことが、上手に住み替えるコツといえそうだ。(小山孝)
目的と資金計画
 神奈川県内に住む男性(74)は最近、有料老人ホームの入居契約を結ぶ直前にキャンセルした。妻を亡くし、一戸建てに一人住まい。結婚した娘は遠方にいる。「今は健康だが、先々のことを考えると心配。ホームに入ろうと思ったが、サービスが良すぎると、かえって生活意欲が衰えるような気がして……」と住み替えのタイミングの難しさを話す。
 東京都内で暮らす女性(67)も悩みは同じ。夫と二人暮らしで、数年前からホームを探す。「元気な時は、『入居はもう少し先でも』と思うが、ちょっと病気をするとあせってしまう」
 15年前から、高齢者向け住宅の情報提供・相談に応じているNPO法人「シニアライフ情報センター」(東京都渋谷区)によると、生活に不安を感じる70歳前後から住み替えを考える人が多い。早めに住まいを移せば新しい友人が出来る可能性もある。だが、「早めの住み替えが誰にとっても良いとは限らない。老後の暮らしのイメージや転居の目的をはっきりさせておくことが大事です」と、同センター事務局長の池田敏史子さん(61)は強調する。

 元気なうちからの入居をうたっているホームも、実際に入居してみると、周りが要介護者ばかりで生活を楽しめないこともある。
 また、ホームに入れば食事や入浴など様々なサービスが提供されるため、人任せの生活になり、急に心身が衰える場合もある。「自由時間が増えるため、趣味がないと時間を持て余してしまうことも」と池田さん。
 さらに、将来に備えて元気な人が入居する場合、居室や共用部分にそれなりの空間が必要なため、入居一時金が数千万円かかることもある。「資産の大半を処分して入居した場合、生活を切り詰めざるを得ない。元気なうちに楽しめるはずの旅行や買い物を我慢することにもなりかねません」
 一方、早めの住み替えが適していると考えられる人もいる。一人暮らしで、家事や自己管理が苦手な人や、孤立感が強い人などだ。
60代になったら

 住み替えにあたっては、自己資金についても、よく検討しておく必要がある。75歳で自宅から転居した場合の経済的負担をセンターが試算したところ、いったん高齢者向け賃貸住宅などで在宅介護を受けながら生活し、要介護度が悪化した段階で入居金が数百万円台の介護付き有料老人ホームに移る方が、初めから居室や共用部分が広い有料老人ホームに入るより負担は低いという結果が出た。
 「以前は『自宅から介護施設へ』という選択肢しかなかったが、最近は高齢者専用の賃貸住宅などが出来、そこを経由する住み替えパターンも増えてきた。元気な時から入居するのか、認知症など介護が必要になってから移るのかでは、生活も費用もまるで違ってくる。60代になったら、考え始めた方がいいでしょう」と池田さんはアドバイスしている。
(2006年6月20日 読売新聞)

高齢者専用住宅のニュース:読売新聞引用

今は元気だけど、将来は不安な人に…高齢者専用賃貸住宅

キッチンもついていて広々としている「ココファンレイクヒルズ」(東京都大田区)
「住み続ける権利」保証
 昨年12月に、高齢者向け住宅の新しい制度として「高齢者専用賃貸住宅」ができました。今後、高齢者向けの賃貸住宅として増えていくと予想されています。ただ、現状では、部屋の広さも賃料もサービスの内容も千差万別です。制度の内容とともに、入居の際には個別の物件をよく調べることが必要です。(斎藤雄介)
 「まだまだ元気だけど、一人暮らしがちょっと不安になってきた」
 高齢者の情報を提供している「シニアライフ情報センター」にはこんな相談がよく寄せられます。「従来であれば、ケアハウスと有料老人ホームが選択の対象でしたが、元気な方向けに、最近は高齢者向けの賃貸住宅もいろいろ出てきました」と池田敏史子事務局長は言います。
 高齢者向けの賃貸住宅には、入居者の所得に応じて家賃補助があり、バリアフリー(段差などがない)の「高齢者向け優良賃貸住宅」、高齢者の入居を拒まない「高齢者円滑入居賃貸住宅」などがありましたが、昨年12月から新たに、「高齢者円滑入居賃貸住宅」の中に、高齢者のみが入居する「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)という制度ができました。
 「まだ数は多くありませんが、今後、この高専賃が増えていくと考えられています」と、老人ホームの入居相談などを行っている「タムラプランニング&オペレーティング」社長の田村明孝さんは言います。
 国土交通省住宅総合整備課によると、高専賃は、比較的元気なうちに自宅から住み替える場所として想定されており、介護などが必要になったら、外部の事業者に依頼することになります。終身利用権方式の多い有料老人ホームと違って、入居の際に賃貸借契約を結ぶため、借家人の権利が法律で保護されており、事業者の倒産などの事態にも住み続ける権利を主張することができます。
 前払い家賃や日常生活に関するサービスの有無など、詳細な情報開示を義務づけられているのも特徴です。介護保険の報酬を受ける「特定施設」の指定を受けることもできます。ただ、現状の高専賃の中身は千差万別なので、入居を検討する場合は、内容を十分調べる必要があります。
 例えば、今月1日にオープンした高専賃「ココファンレイクヒルズ」(東京都大田区)の場合。ここは1、2階にデイサービスや訪問介護ステーションなどが入り、3階が7戸の「ココファンレイクヒルズ」になっています。
 ここの特徴は、首都圏で初めて「終身建物賃貸借契約」を導入したことです。入居者が生きている限り契約が継続し、死亡時に終了する仕組みです。入居者から見ると、契約更新の不安がありません。
 月額費用は、ワンルームタイプで賃料、共益費、緊急時の対応や医療相談などのサービス費で計21万3000円。部屋は25平方メートル以上で、バス、トイレ、キッチン付き。賃料を前払いする方法も選択できます。食事や介護が必要な場合は別に購入することになります。
 高齢者住宅を全国展開する不動産会社「ナラワ」(千葉市)が運営する高専賃「ウェルライフガーデン鎌ヶ谷」(千葉県鎌ヶ谷市)の月額費用は、賃料と共益費で6万8750円。入居時に保証金など14万7660円が必要です。もともとは独身者用の社員寮だったので、部屋は13・5平方メートルのワンルームでバス、トイレは共同です。
 契約は、通常の賃貸借契約です。食事や介護が必要な場合は別料金。テナントとして、介護事業所と食事業者が入っています。現在は30室満室です。入居者の要介護認定は、平均して要介護2ぐらいだそうです。
 このように、高専賃は、部屋の大きさも料金体系も入居者のタイプも千差万別です。よく比較、検討することが必要です。
 「賃貸住宅を選ぶ時に勧めているのは、バリアフリーはもちろん、体調を崩した時に助けてくれる人がいること。まだ元気で外出を楽しみにしている人なら、交通の便がいい所がいい。しかし、食事などの生活管理ができない人は有料老人ホームなどのサービス付き住宅がいいでしょう」と池田さんは言います。
 高齢者住宅財団のホームページで、全国の賃貸住宅を探すことができます。
 主な問い合わせ先
 「シニアライフ情報センター」
 03・5350・8491、http://www.senior-life.org/
 「タムラプランニング&オペレーティング」
 03・3292・1107、http://www.tamurakikaku.co.jp/
 「高齢者住宅財団」
 0120・602・708、http://www.koujuuzai.or.jp/
 「ココファンレイクヒルズ」
 http://www.cocofump.co.jp/
 「ナラワ」
 http://www.100-wlg.net/
(2006年3月13日 読売新聞)

有料老人ホーム連載4:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
賃貸、分譲の類例も
気軽な住み替え実現
共有のスペースにあるマシンでペダルこぎ運動に汗を流す石川さん(左)=サンリスタ守口で
 24時間の見守りや食事サービスなどが付いた高齢者向けの賃貸住宅や分譲マンションが増えている。有料老人ホームによく似たサービスを提供する新しい老後の住まいの選択肢だ。どんな住まいなのだろうか。(森川明義)
 大阪府守口市の「サンリスタ守口」。パナホーム(本社・大阪府豊中市)が2003年6月に開設した高齢者専用の賃貸住宅だ。5階建てで、41平方メートルの部屋が計50室ある。入居できるのは、60歳以上で自立している人。1階にはフロントがあり、24時間態勢で入居者のニーズに応えている。
 昨年5月に入居した石川基子さん(65)はここに入る前、幾つか有料老人ホームも見学した。だが、「入居時に何千万円もかかるホームはとても無理」。また、「部屋が狭かったり好きな時に食事ができなかったり」で、気に入るところがなかった。
 その点、賃貸方式のここなら多額の一時金は要らないし、気軽に住み替えることもできる。「サンリスタ守口」の場合、利用料は家賃とスタッフの経費である「サポートサービス費」をあわせて月14~16万円。共有スペースの利用料として一時金(5年分)192万6000円が必要なものの、途中退去の場合は一定金額(54万円)を除き、居住年数に応じて返ってくる。
 介護サービスは付かないが、外部の訪問介護サービスなどを利用できる。館長の稲垣隆弘さんは、「体操など元気メニューの提供に力を入れており、安否確認はもちろん、イベント開催も心がけている」と話す。

 「将来、介護が必要になった時のことは心配だが、今は賃貸という選択肢に満足しています」と石川さんは話す。
 高齢者向けの賃貸住宅については、国も昨年から普及に乗り出した。老夫婦や独り暮らし世帯向けの賃貸住宅で、都道府県に登録したものを「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」と名付けて制度化、生活に不安のある高齢者の早めの住み替えを促している。ただし、登録数はまだ少なく、「サンリスタ守口」も現在、登録に向け準備中だ。
 同朋大学の伊東真理子助教授は、「住み替えの簡単さが賃貸の利点。ただし長く住み続けるには、地域の福祉サービスの充実が課題となる」と指摘する。
 賃貸だけではない。最近は、分譲型の高齢者向けマンションも増えている。「プレサンスコーポレーション」(大阪市)が展開する「エイジングコート」シリーズ。神戸市三宮の物件は80戸が売り出しから4か月で完売、堺市堺東の物件も89戸中69戸が既に売れている。
 フロントにスタッフが常駐し、専用食堂や大浴場などがある。建物内に介護事業者や診療所がテナントで入っているのも特徴だ。
 堺東の場合、36~63平方メートルで、価格は1900万円~3800万円、管理費は月3万3000円~4万8000円。担当者は、「一般のマンションより2、3割高いが、財産として残せるのが分譲の魅力」と話している。
高齢者専用賃貸住宅 昨年12月に開始された登録制度。高齢者の入居を拒否しない「高齢者円滑入居賃貸住宅」の一種で、設備などの基本情報などを登録する。介護サービスを提供している所もある。面積要件などにより、有料ホームの届け出が必要なものもある。登録情報は高齢者住宅財団のホームページ(http://www.koujuuzai.or.jp)を参照。
(2006年6月14日 読売新聞)

雄郎老人ホーム連載3:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
「住宅型」とは?
見守られ「悠々自適」
午後のひととき、スタッフと談笑する長浜さん夫妻(中央)と志村さん(左から2人目)(ライフハウス緑橋2で)
 有料老人ホームの中には、介護サービスが付かないタイプもある。訪問介護など外部の在宅サービスを利用する「住宅型」もその一つだ。住宅型の暮らしぶりを見た。(森川明義)
 大阪市東成区の「ライフハウス緑橋2」。街なかで地下鉄駅にも近く、大阪の中心、梅田まで30分足らずで行ける。
 40平方メートル弱の1LDKと、50~60平方メートルの2LDKタイプがあり、入居一時金は1810万円~2700万円。月額管理費は7万3500円~11万5500円で、別に食事、家事援助サービス(掃除や買い物代行)も有料で提供している。
 計37室に44人が暮らしており、平均年齢は77・23歳。入居時自立が原則だが、開設から5年がたち、現在、9人が介護保険の認定を受けている。
 住宅型では、自宅の場合と同様、自分でケアマネジャーを見つけ、介護サービスを外部の事業者から購入する必要がある。週3回、掃除や買い物、入浴介助サービスを受けているA子さん(82)も、ケアマネの所在情報はホームから得たものの、自分で事業者と個別に契約を結んだ。
 ただし、重度化して在宅サービスだけでは生活が困難になった場合は、住み替えが必要になる。ハウス長の河井文枝さんは、「ここの場合は住み替えが保障されているが、このまま住み続けたい人の介護をどうするかは、我々の課題でもある」と話す。
元気なうちに

 もっとも、高齢者全員が要介護状態になるわけではない。住宅型の魅力はむしろ、「食事などの生活サービスがある点と、元気なうちに入居して生活を楽しめる点」(高齢者住宅情報センター大阪の米沢なな子さん)にあるといわれる。
 分譲マンションを売って5年前に入居した長浜糺(ただし)さん(69)と妻の由里子さん(68)は、子供がいないため、早めの住み替えを実現した。「24時間の見守りがあり安心感があるが、老人ホームらしくない。普通の暮らしが楽しめるのがここの良さ」と話す。
 一人暮らしの志村允(みつ)子さん(77)も、工芸盆栽の教室を開くなど、充実した毎日を送っている。
介護充実型も
 一方、最近は、重度化した場合にも対応できるよう介護の充実をうたう住宅型も登場してきた。
 兵庫県淡路市にある「ナーブ」。福祉機器の開発、コンサルタントをしている春山満さんの発案で、1階に訪問介護事業所が入っている。認知症にも対応し、在宅の支給限度額を超えた場合は、月々の管理費の中でホームの職員がサービスを提供する。入居時にかかる費用は400万円、月額利用料は家賃、管理費、食費を含め20万~30万円。自立の人は約90人中1割で、要介護度の平均は「3」近い。
 一見、介護付きのようだが、介護サービスは1階の事業所以外も利用できる。春山さんは、「住宅型は『生活の場』。教養、娯楽イベントを充実させる一方、ここではみとりも視野に入れている」と話す。
 住宅型は介護付きに比べ数が少なく、特に都市部でサラリーマン層でも一時金を払える物件が少ない。住宅型といえども介護をどうするかも今後の課題といえそうだ。
有料老人ホームの類型
 「介護付き」は、介護保険で「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているホームで、全体の8割以上を占める。ほかに「住宅型」、介護が必要になると退去しなければならない「健康型」がある。介護保険財政の観点から「介護付き」の新規参入を認めない市町村も多く、今後は住宅型の増加も予想される。
(2006年6月13日 読売新聞)

有料老人ホーム連載2:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
「高価格」での暮らしは?
広い空間 介護充実
「七彩の街」の一般居室。24時間介護が必要になると介護居室に移るが、水野順一ハウス長は「なるべく長く一般居室で暮らし続けてもらえるよう、努力しています」と話す(埼玉県ふじみ野市で)
 低価格の有料老人ホームが増える一方、入居一時金に数千万円を必要とするホームも多い。「人生最後の高い買い物」ともいわれるホームでは、どのような生活と安心が得られるのだろうか。(小山孝)
 広さ50平方メートルの1LDKの部屋には、緊急通報装置がある以外は使いなれた家具が並び、バルコニーには洗濯物がたなびく。
 埼玉県ふじみ野市にある有料老人ホーム「ライフ&シニアハウス川越南七彩の街」で暮らすAさん夫婦(69歳と68歳)の部屋は、老人ホームというより、分譲マンションのようだ。
 昨年、同県越谷市内の一戸建てから転居した。子どもがなく、会社経営を数年前に後進に譲ったのを機に、「介護が必要になってからでは遅い」と住み替えを決断した。自宅を売って約3500万円の入居一時金に充て、月約20万円の食費や管理費などは年金で賄う。
 妻は、「家具の8割は処分しなければなりませんでした」とぼやくものの、「いつもだれかがいる安心感があります」と話す。
 入居者同士のサークル活動も盛ん。多目的ホールでは近隣の住民も招いた料理教室が開かれるなど、生活を楽しむ要素も多い。
 今春、関西から移り住んだBさん夫婦(85歳と82歳)にとっての魅力は、1日3食、複数のメニューが選べる食事サービスだ。「この年になると食事の準備や片づけ、戸建ての維持管理は大変。ここなら何かあっても安心」と夫は言う。
 生活科学運営(本社・東京)が昨年開設したこのホームには、元気な時から入れる一般居室(32~98平方メートル)が60室、常時介護が必要な人のための介護居室(21~23平方メートル)が32室ある。国基準より手厚い職員配置(要介護者2人に対し1人)をしているため、ホームから介護を受ける場合、月4万2000円の上乗せ金が必要だ。

 有料ホームの情報提供・相談を行っている「高齢者住宅情報センター」(東京)の山田礼子室長によると、元気なうちに入居して必要に応じて介護を受けるタイプは、居室や共用部分で一定の広さが必要なため、一時金は、最低でも2000万円台からのところが多い。一方、主に要介護者を対象にしたホームでは低価格化が進むが、そうしたホームでも、高額な入居一時金を必要とする所もある。
 東京海上日動サミュエル(横浜市)が一昨年、横浜市青葉区に開設した「ヒルデモアこどもの国」(54室)もその一つ。一時金は2400万円、介護費用を含めた月々の費用は約30万円。ここの特徴は、認知症ケアに力を入れ、家庭的な環境のもとで、少人数ごとの介護を実践していることだ。介護職員も、重度者には1対1で対応する。また、散歩ができる広々とした日本庭園があり、館内は木目調で統一するなど、雰囲気作りにも費用をかけている。
 認知症の母親(72)が入居している女性(45)は、「低価格ホームも見学したが手狭さが気になった。ここは職員の多さが気に入っている」と言う。
 入居金は共用部分の広さなどで大きく変わってくる。「高額だからといって必ずしもサービスがいいわけではないので注意が必要」と山田室長は話している。
入居一時金
 有料老人ホームに入居する際、居室や共用部分を利用するために支払う対価の総称。家賃の前払いなど、ホームによって位置付けや額が異なる。4月の老人福祉法改正で、同月以降に新設されるホームに最高500万円の一時金保全の義務が課せられた。
(2006年6月7日 読売新聞)

有料老人ホーム連載1:読売新聞引用

第3部 有料老人ホーム
「低価格」急増
入居金ゼロも登場
食堂で入居者や職員と談笑する落合さん(右から2番目)。「いろいろな人がいて、話題が豊富で楽しいですよ」(東京・小平市の「アミーユレジデンス新小平」で)
 介護保険導入後、急増し、多様化が進む有料老人ホーム。かつては数千万円もする入居一時金が一般的で、庶民には高根の花だったが、低価格化が進み、「ついのすみか」として有力な選択肢になってきた。有料ホームの現状と、選択の心得をお伝えする。(林真奈美)
 JR新小平駅から徒歩5分。住宅街にある新築マンション風の3階建ての建物が、今年5月に開設した有料老人ホーム「アミーユレジデンス新小平」(東京・小平市)だ。介護保険で「要支援」「要介護」と認定された人向けで、51室すべてが個室。1階と3階の食堂で、入居者たちがくつろぐ。
 ここのウリは、入居一時金が要らない点。従来、有料ホームは、終身利用権を得るために多額の一時金を入居時に求められることが多かった。これに対し、「新小平」を運営するメッセージ(本社・岡山市)は、数年前から一時金50万円前後のホームを全国展開、さらに今年度以降の開設分は「入居金ゼロ」に踏み切った。「新小平」の月額利用料は食費を含めて18万円台で、原則として終身利用できる。
 個室の広さは23・6平方メートル。入り口寄りに風呂、トイレ、洗面、ミニキッチン、洗濯機置き場があり、引き戸を隔てて7畳弱の居間がある。介護職員は満室時で入居者2・5人に対し1人の割合。特別養護老人ホームの3人対1人より手厚い。

 独り暮らしが不安で入居した「要介護1」の落合ゆきさん(88)は、「年金が少なく、何千万円もかかるホームは無理。ここは価格も魅力的だし、街なかで便が良く、部屋にお風呂もあって、自分のペースで暮らせます」と満足そうだ。
 低価格は土地や建物を自社所有せず賃借にし、設備や内装を簡素にして初期費用を圧縮することで実現。広告宣伝も地元でのビラ配布のみとし、食事も外部の集中調理方式とした。「大浴場はないが、希望者は近所の銭湯に連れて行く。ホームは第二の自宅。ホテルのような豪華さより、以前の生活の再現を重視している」と、中島禎孝・経営企画室長は説明する。
 
要介護者向け中心
 ベネッセスタイルケア(東京・渋谷区)は、入居金なしを選べるホームを展開。「まどか本八幡」(千葉県市川市)では、入居金なしだと毎月の負担が21万6000円、入居金350万円を払うと毎月17万4300円。家庭的な雰囲気が特徴だ。同社の入居金数千万円のホームとの違いは、「立地、建物や内装、食事や看護師配置など」(経営推進本部)という。
 入居金が安いと気軽に入退去でき、特養の待機者にも使い勝手がいい。
 ただし、入居金が数百万円以下のホームは、要介護者を基本に設計されたものが中心。個室が13平方メートル程度の狭い所もある。入居者の大半は特養に入れるほど重度ではないが、独り暮らしや家族介護は困難な人たちだ。健康な人が悠々自適の生活を期待するのは無理がある。また、入居相談などを行う「タムラプランニング&オペレーティング」の田村明孝社長は、「介護の質にバラつきがあり、十分な見極めが必要」と指摘している。

有料老人ホームの本:読売新聞引用

『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』
滝上宗次郎
出版社:講談社
発行:2006年6月
ISBN:4062824043
価格:¥1680 (本体¥1600+税)

入居先選びに冷静な助言
 著者の滝上宗次郎氏は有料老人ホームの経営者である。その経営者の手になる本であり、しかもタイトルからして、きっと有料老人ホームの良いことばかり書いてあるに違いないと思われるかもしれないが、そうではない。きわめて客観的で、ときに辛口に書かれた本だ。
 入居時に多額の一時金を支払って、人生の最後を過ごすための家賃を前払いするのが有料老人ホームである。しかしそのサービスの内容について誇大広告が指摘されるほど不透明な部分も大きい。従ってそれは人生で最も大切な買い物であると同時に、もっとも危険の大きな買い物にもなる。だからこそ多くの有料老人ホームを、まだそれを冷静に見られる若いときから数多く見学しておくべきだ、と著者はいう。
 その際、ホームの経営理念は「廊下の幅で測ってください。全然、お金にはならないところですが、廊下の幅が広ければ職員は働きやすいし、いい介護ができるのです」。また「良心的ではないホームには良心的な職員はまずいられません」から、職員の定着率を入居者に聞いてみると良い。さらに「有料老人ホームの善し悪しは入居して一~二ヵ月しないとわからない」のも事実であり、そこで何よりも大切なのが、契約してから90日以内の解約であれば入居者にほとんど損害なく解約できる「解約特例」がついているかどうかだ。などと助言は明快で具体的だ。
 著者が、「やっぱり終のすみかは有料老人ホーム」というのは、将来多くの人がそうせざるをえなくなる、という認識からだ。高齢化、長寿化にともなって要介護人口はますます増えていくが、そうした人たちは早晩病院にはいられなくなり、かといって長期間の在宅介護は家族の大きな負担となる。そこで家族に負担をかけず質の高い老後を送ろうと思えば有料老人ホームがきわめて重要な選択肢となるというわけだ。その際に大切な選択眼を、プロの立場から与えてくれる本である。
 ◇たきうえ・そうじろう=1952年、東京生まれ。有料老人ホーム「グリーン東京」社長。
講談社1600円
評・清家 篤 (慶応義塾大学教授)
(2006年9月19日 読売新聞)